
Goodbye NAGRA CDC
おそらく国内展示の最終機であろう NAGRA CDC がフロアーから旅立つことになり、こういうCDプレーヤーは今後もう作られることはないのだろうと思う寂しさも抱えながらお届けする楽しさもあるワクワク感が入り乱れています。とてつもなく精巧かつ精密に作り上げられた機器であるにも関わらず、一般的なオーディオのハイエンドというパフォーマンスの評価域とは異なる場所で存在しているような特別感。NAGRAのCDプレーヤーとして長らく生産されていたものとは言え、ユーザー数は驚くほどは多くないと思われる範囲、それこそが孤高の存在としての証明ともなると思われるのです。全てを言葉で説明しきれない魅力度の高さ、音や価値観の殆どが主観であることも曖昧さの原因ですが、それこそが最も重要であることだと説明できる製品でもあります。
ある角度から見れば使いにくいとも言える意見があることも受け止められ、しかしそれは当たり前のことで、何かに特化することで誰かの期待や要望を手放すことになるのです。機器を直接触り操作することで動作する直感的な音楽再生装置としての完成度、トレーの開閉、再生、一時停止、停止、曲送りも全て個々の操作で行うこと。使うことで知る、要はレコード再生のデジタル版だと気づくのです。その全ての操作が片手の範囲の中で見事な位置関係で配置されます。2本指で操作する必要のある分かりやすいツマミのサイズと指先で瞬間的な指示の可能なトグルスイッチの絶妙な関係。直接操作とリモコン操作の共存は無く、なぜならそれは誤操作を防ぐ為のシンプルな対策であり、NAGRAがプロシューマー業界で長く信頼され評価され続けた裏付けでもあります。ある意味では潔いとも言える、これらの経験値をコンシューマーに落とし込む際にユーザー側に緩く近づくのでは無く、あくまで培った知恵と経験をそのまま全てのユーザーに体験して欲しいという嘘のない素直なものづくり。NAGRA CDC よりスペックの高いCDプレーヤーは世界にいくつもあるはずですが、手元に置きたいものはこれ以外に無い、と思わせるCDプレーヤーも他にあり得ないと思わせる本当に素晴らしい製品であったと思います。どのように使うことでより一層楽しめるのか、今日はどんな演奏を再生したいのか。ちょっとした挑戦状を突きつけられているような緊張感を持ったオーディオという意味でも、本来のオーディオが持つ趣向性の極みのようなものであったと記憶しておきたいと思います。
この続きはご納品先のお客様が一層素晴らしい花を咲かせてくれると思いますので、実はというか、楽しみは終わることがないのです。


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