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Q1

仕事柄、かなり多くのスピーカーを再生して聴いている事になりますが、過去のスピーカーの中で改めてもう一度しっかり聴いてみたいと思うものはいくつかあります、その中のひとつが MAGICO Q1。MAGICO が Qシリーズを積極的に展開していた頃、フロアーモデルの Q5 を発売した後くらいでしょうかブックシェルフモデルの Q1 を発表しました。その時にあまり驚かなかったのは、過去に MAGICO のキャビネットがまだ木と金属のハイブリッドデザインだった頃の MAGICO MINI を知っているから。あの頃はフロアーモデルの展開も然程バリエーションは多くなく、確かに重量級のデザインではあったものの木材が使用されていた事もあり目に映るスピーカーの景色には大きな違和感がなかったのです。その中でブックシェルフサイズと位置付けられて発売された MAGICO MINI は異様でした。フロアーモデルのキャビネットデザインは直線を基調にしたものでしたが、MAGICO MINI は曲線を基調としたもので、なにかこのスピーカーだけ特別にデザインしたようにも見えたのでした。製品プレスの至る所に “MINI” とか “最も小型” などが書かれていたので、製品広告をご覧になって実物を見た方はさぞ驚かれたでしょう。これが小型スピーカーと言える人達にはどういう基準があるのだろうと、世界は広いなぁと思ったものです。オーディオの世界にはこういった基準の摩訶不思議が時々あるので今では慣れっこなのですが、このスピーカーを記憶に強く留めたのはそのサイズでも重量でもなく、やはり再生のパフォーマンスでした。程なくして MAGICO の全てのラインナップが金属の塊となる前夜とでも言いましょうか、今思えばあの美しさは稀有なものだったと思えます。

そしてQシリーズが大ヒットを飛ばす事になった MAGICO がまたも “MINI” として作り出したのが Q1 だったのです。だから先ほど書いた通り、大きくは驚かなかったのです。しかも今回は先行して製品プレスの資料を見た時のシンプルなデザインもあり、すでに発売されていた他のQシリーズを見ればその流れも当然だったわけですが。それでも、資料を見ているだけの時すでにこの Q1 には何かがあると思わせる匂いが漂っていたように思います。実際に国内展開が始まり、実機がフロアーに到着した時にはその匂いが正しいものであると確信できたわけです。遠目から見ればオールブラックのシンプルなブックシェルフスピーカーに見えなくもない、今回は “MINI” と言って間違いのないサイズではないだろうか。と思いながら近づくと、そのイメージが揺らぐおかしな感覚になります。

50kgを超える重量はブックシェルフサイズとして纏められているが故に実際に触って動かそうとすると手に掛かる重量が大きく感じます。頭の中で意識している感覚と実際の重量バランスがうまく取れていないのだと思いますが、やっぱりこれはなにか変だぞと思わされます。そうやって一通り製品をとりまく状況に振り回された結果、再生した時の仰け反るような驚きとその場から離れられないような感覚が同居するような不思議な時間を味わう事になり、このスピーカーもまた記憶に強く残るものとしてやがて生産完了がアナウンスされたのでした。

それから何年も巡り合う事がありませんでしたが、今回偶然にも MAGICO Q1 を引き取る話がありフロアーで再生する機会を得ました。ワクワクしながらセッティングをして、折角なら Q1 だけのセッティングを準備したいという気持ちで、そういう時の動きは早いものです。何年か振りに再生した Q1 の音は、やはり格別でした。こんなにも滑らかに音を聴かせるスピーカーがあるのかと、この金属の塊を目の前にして以前と同じ気持ちを持てるのは嬉しいものです。贅沢にスピーカーの間隔を広げてもしっかりと音で埋め尽くすエネルギーと過不足なく聴かせる低域表現の見事さはこれに変わるものがないと思います。

Q1 発売時には無かった新しい製品を組み合わせての再生を味わいたく、しばらく様子を見てからの販売を考えていましたが再生中に偶然にもこのスピーカーを探されていた方が来店され、そのパフォーマンスに感激されこれも何かの出会いという事でご紹介の運びとなりました。短い期間の滞在となりもう少しここで聴いていたかった気持ちもありましたが、ご納品もまたそれ以上に楽しみです。

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